(もう、死のうか)
彼はずいぶん思い悩んだ挙句、そう考えた。
振り返れば、他に方法は無かったのかとも思うが、それは結果論というものだろう。
馬鹿馬鹿しい、余りにも馬鹿馬鹿しくも、その馬鹿馬鹿しさゆえに誰にも相談出来ない悩みを、彼は抱え込んでいたのだから。
彼が最初に己の性癖の異常さに気付いたのは、中学生の頃だった。
それまで彼は自分自身の事を、“普通の女の子を好きな普通の人”だと思っていたのだが、どうもその時点ですでに違っていたらしい。
発端は大した事ではない。男同士でも女同士でも良くある、好きな人の告白だ。
誰が好きだとか、誰を好きだとか、そうした他愛ない話で盛り上がるだけの、何という事のない世間話だった。
そんな話の中、彼は馬鹿正直にも『近所の小学生が好きだ』と告白したのだが、そこで彼に与えられたのは周囲の知人有人の嘲笑と――『ロリコン』という不名誉な四文字だった。
しかし彼は――
ロリコン呼ばわりされても、自分は中学生だ。
つい先日までは自分も小学生だったんだから。
年齢的には何ら問題がない。
――そう考えて楽観視していたのだが、年経るに連れ、“たまたま好きになった子が年端も行かない少女だった”のではなく、己の嗜好が“年端も行かない少女を求めていた”のだと気付いたとき、彼は愕然とした。
世間的には、成熟していない異性に性的衝動を感じるのをして、ロリコン(女性の場合はショタコンというらしいが、それはさておき)というらしい。
『ならば、少女に性的衝動を感じる自分は――やっぱりロリコンじゃないか』
そう感付いたとき、彼はどうしようもない自分の性癖に眩暈を起こした。
彼はこう見えてもモラリストだったからだ。
大人にもなって、小学生に告白するなぞ非常識な事は出来なかったし、かといって暴力的に事を済ませるなど、斯様な性格の持ち主に出来るはずもなかった。
己が本当のロリコンなのかを試すため、普通に同世代の女性と付き合った事もある。
見た目が若ければ良いのではないかとも思い、同年齢でありながら、身長が1メートル20センチしかない、クラスでもかなり小柄な部類に入る女性とも付き合った事があるが、駄目だった。
むしろ、自分が予想以上にディープな性癖を抱えているのを自覚してしまっただけに過ぎなかったのだ。
少女と付き合いたい。
少女を犯したい。
そんな欲望に思い悩み、彼は自殺しようと思った事がある。
恐らく、このまま生きていたところで、誰かに迷惑を掛けてしまう。
モラリストの彼は、真剣にそう思い込み、悩んだのだ。
それは多分、実に馬鹿げた話だったに違いない。